Cat's Brand ~ライブorアルコール~

ライブと酒とその他日常ネタです。

KOTOKO「硝子の靡風」アルバムレビュー前編

1.RETRIEVE

・第一印象は確かに、「…あれ?」 まるでアルバム初見のイメージと合わなさすぎな一曲。しかし実は、アルバム全体の構成からは絶対外せない曲ですし、内容も素晴らしく「緑」なんですよ。深い深い森に居て、そこから飛び出そうとしている何か。そんなイメージを詞の中から受けました。冒頭の雑踏と稲妻のSEは、都会、人間界という「社会」から生まれ出でる雛のようで。間違いなく「硝子の靡風」の冒頭を飾る曲です。
・物凄く好き。ダークっつーか、ちょっと違うんですけど、KOTOKOさんの今作にかける雰囲気がそうさせてないとは思います。深く重く行きがちだった前作のベクトルを捻じ曲げたような(笑)。それが危うい感じになって面白い。パッと聴いても、こういう曲じゃないとKOTOKOさんはいけませんよっ! って感じです。ヴォーカルの力量に頼る面が意外に多く、難しい。受けるインパクトからは微塵も感じさせませんが。叩きつけるような表現が出来れば、もっと良くなる…ライブでも期待の一曲ですよ。イベントライブではどうも、イントロとの繋ぎに納得がいってないので、構成共々…めちゃ期待してます。



2.Wing my Way

KOTOKOさんの代表曲のひとつ。印象は随分と変わりますが、実は1曲目「RETRIEVE」から見事につながっていますね。雛が成長し、飛び立つまで。うん、素晴らしい。晴れやかな、広がりを持つメロディと、内容もとにかく夢、夢、夢に向かう超ポジティブソングで、KOTOKOさんの伸びやかで高く通る歌声とマッチして、そりゃ人気でるわ!って感じです。元気出ます。勇気出ます。背中を押してくれます!
・個人的には全部好きなんですけど、特に…「答えのないパズル解いて 階段を一つ登って 少し高い目線に何が映る?」のところが超絶好き。こんな前向きな曲にも、ちょいと毒があるところが。「飛び立つ」ことを当たり前のように歌いつつ、飛び立てることは当たり前じゃないんだよ、と歌っているところがこの曲の最大の魅力です。今までにあった出来事、出会った人たち、それらすべてのおかげで今スタートラインに立てているという、「感謝」の裏返しであり、同時に油断というか、気を引き締め、自身を戒め、自らの足場を確認する意味での曲かもしれませんね。決して若さだけの歌ではありません。そんなところに私は惹かれまくりなわけですよ。正直これをライブで聴いたら泣いてしまうかも。私が今の職場に入る前、トレーニングと勉強の間にずっと聴いていた曲で、本当に頼りになり、救われた歌ですから。



3.覚えてていいよ

・いつの間にやら、ライブでは外せない曲になってしまいました「覚えてていいよ」! なんといっても、発売前なのにライブで大盛り上がりという伝説(?)を持つこの曲は、音的にはもう元気いっぱい、パワー&ラッシュで猪突猛進気味の、飛んで跳ねるにゃ最高ソングでございます。シングルからは特に変更はなく、「先行シングル」という言葉が物凄く嫌いな元CD屋店員としては少々複雑な思いが(笑)。
・詞的には、音とはまた正反対な感じですよね。今作はそのへんの「対極」を上手く融合させるのが目的の一つだと感じさせてはいますが、この曲もまたしかり。これだけ明るいチューンなのに、歌詞は…「進まない」「なのに」「疑問」「出来ない」「泣」「悲」「恥ずかしい」「悔」などなど、否定系の言葉づくしだということにいつ気がつくか。それがこの曲の本当の魅力を知る上での最重要事項かもしれません。いや実際にそう思います。アルバム構成から言えば…飛び立ったら壁にドカーンとぶつかった、と。でもいつかは壁を「超え」ようとする明確な意志。否定を否定するパワーをこの曲から、ライブでは貰いたいと思います。



4.ため息クローバー

KOTOKO高瀬一矢で「I've」(として)の曲をつくるとどうなるか。結果がこの曲かと(笑)。いや笑うところじゃねぇ俺。でも正直ニヤリングが止まりません。そして「何つー曲だ!?」という感想も。両者の魅力が存分に出ていると同時に、あまりに難解であるこの曲。少しずつ私なりに噛み砕いて。
・まずは高瀬氏のアレンジが、実にI'veらしい。初期からのファンもこれなら納得? いやそれは分かりませんが、このアルバムの中でインストとして聴きたい曲を一曲と言われたら、私ならこの曲を推します。理由は…どうしても、名曲「disintegration」の匂いを感じるんですよ。こっちは高瀬氏が作曲から好き放題やった感じですから(笑)、やっちゃった感=純度においては歴然とした差があるんですが、それでも…聴けば聴くほど「音」に吸い込まれるイメージを強く受けるという部分において、両者は物凄く似ている。そして歌詞が置いてけぼりという印象もまた似ている(笑)。雰囲気で聴かせてしまうというか、このへんは「歌」としてはすごく勿体無い。でもそういうときこそ、歌詞も噛締めないといけません。
・「クローバー」っていうのは、実に北海道らしいな、と最初思いました。寒さに強い草花なことは確かですが、何ていうか、そういう…図鑑に載ってる知識じゃなくて、感覚で分かる感じ(へんな表現)。北国出身の人間しか分からないのかもしれませんが…雪の寒さにも夏の暑さにも負けないあの強烈なまでの生命力は逆に何かに囚われている感じがして、一種の冷たさがありますよね。そのへんを恋心にかけて歌っているのかなぁ、と思ったわけですよ。「思った」りも「ため息」もしないクローバーになりたいと言っているのに、強烈に「聞きたい」とも言っている矛盾。与えれば与えられると思った強さと、弱さとを、あの冷たくも暖かい生命力とダブらせているような気がしてなりません。そして最後に気づいたこと。クローバーは草花ですから…花言葉が存在するんですよね。クローバーの花言葉は、「堅実」「幸福」「約束」そして…「私を想ってください」 正直ガツーンときた。



5.Meconopsis

・「Meconopsis」とは、ヒマラヤに咲く青い芥子のこと。花びらがまるでドレスの生地のような感じで、だからこの曲の歌詞にも「芥子の羽衣」という表現があるのですよ。まあそれはさておき…。曲も詞も「ため息クローバー」から続きまして、もうドロドロの、ある意味KOTOKOさんらしい曲(笑)です。重い! 暗い! だがそれがいい! ただひたすらに「どうしようもない」感じが出ていて、あー、これこそ心情だなぁと訳の分からない同意をしてしまいます。恋愛において、余裕の無さから生まれる、どこまでも堕ちて行くようなあの独特の絶望感を「青い砂漠」と書けるKOTOKOさんは凄い。いや正確には、「砂漠→青い芥子→山→あれっ?砂漠のイメージは?→しょうがないから全部青にしちゃえ!」という話らしいですが(笑)。ちなみに青い(紫)芥子の花言葉は「慰め」です。もう完敗です。
・好みで言えば、今作中1、2を争うくらい好き。そして、一番「羽 -hane-」の方向性に近い作品でもあります。アルバムを重ねる意味で、やはりこういう「繋」いでくれる曲っていうのは重要だと思いますよ。成長とか前進とかってのは、連続性を持ってなければ意味がない。個人的にすごく嬉しいのです、こういうのは。そしてさりげに今作での最長曲。まるっきり新曲で6分オーバーってのもこの曲だけです。う〜ん、ますます前作に入っていてもおかしくなかったか(笑)。
・イベントライブで聴けたときは狂喜乱舞気味でした。でも逆に、ツアーライブで初聴きしたかったってのもあります。前半に持ってきそうな勢いですが、こういう曲こそ…アレンジしまくりでラスト前に聴いてみたい。我侭意見です。



6.ささくれ

・3曲続けて、これでもかっ!これでもかっ!!って感じの歌です。一瞬aikoのアルバムに迷い込んだような(笑)。そして、今作中おそらくインパクトNo.1! こういう曲は、大好きって人と全然ダメって人に真っ二つに分かれるんですよね。あ、私は「大好き」寄りの中立です(意味不明)。
・まず、全然「大丈夫」じゃないところが素晴らしい。アレンジ前と後では相当印象が違ったんじゃないだろうかと思う、そんな一曲です。C.G mix氏らしさは随所に表れてはいますが、ちょっと面食らいましたよ。これは……ハリーのドラムス爆発曲だ!!! と(笑)。ライブではアレンジ爆発、ソロ爆発でやってくれないかなー。
・詞的には…失恋直後の、心の中ではもうとんでもないことになってるんだけど、あくまで大人な立ち振る舞い・素振りと…少々子供っぽい言葉遣いを表していて、上手い対比に。前述しました「対極」を融合し、アンバランスなところを不自然に感じさせず、さらに魅力にまで昇華させようというテーマを十二分に感じることができました。ただ、メロディのインパクトがありすぎて(笑)。「ため息クローバー」とソックリかもしれませんね、いろんな意味で。『本当の君の気持ちを ねぇ聞かせて』『どうか捨てたりしないで』 「ため息クローバー」が引きつつも押してるのだとしたら、この曲は逆に押しつつも引いてるのか。まさに駆け引きですなぁ。



7.琥珀

・さあここから別ルート突入です。アルバム前半部分では、重く暗くも「相手」があった。ところが…ここから「相手」は存在しているのか、非常に曖昧になっていきます。
・「琥珀」色という表現にはおそらく固定観念が存在するでしょう。それは…「思い出」。セピア色した、宝石のように美しいモノ。事実、琥珀は宝石にも分類されますし、セピア色とも言えるでしょう。「琥珀」という単語、それ自体がある意味反則なのです。それを持ち出し、あまつさえ想い人と重ねるとは! KOTOKOさん最高!(ぉぃ) そして、琥珀色の音を演出してくれる中沢氏、本領発揮です。アレンジには尾崎氏の名も! ねっとりと、樹液から琥珀に変わっていくように…中に様々なものを閉じ込めつつ。だから反則と言ったのですよ!(笑) しかし、琥珀っていうのは何もアノ色だけではないんです。中には赤や青や、紫、黒なんてモノもあるんですよ。様々な色と、様々な時、空気、世界を切り取ってきた琥珀というモノに想いを馳せ、この曲を聴き直してみると…全然違った世界が広がると思います。
・前作の「足あと」に通じるっていう意見を耳にしましたが、コンセプトが全然違いますから。この曲は誰かを想い、「足あと」は自分を振り返る歌。ゼッタイに全然違う! 「足あと」を500回聴いてる私としては譲れませんよ!?


続きは来週までに。